公開日:2026年10月29日/最終確認日:2026年10月29日

量子チップは、どこで、どうやって作るのか
装置と材料特集 Vol.3――設計の道具・工場・試作と試験
量子チップのニュースに「設計キット」「製造契約」「新施設」が出てきても、進んだ仕事はそれぞれ違います。今回は作る側に目を向け、設計を工場へ渡し、できたものを確かめる道筋を読みます。 [1] [2] [3]
Vol.3では、Vol.1で予告した順番を入れ替え、レーザー・真空・原子の冷却より先に、製造・加工を扱います。
1.設計・製造・試験を、一つの道筋で見る
まず、どんな働きをさせたいかを設計し、使う製造工程に合わせます。一般的な半導体では、ウェーハ上に材料の層や回路の形を作り、試験を経て個々のチップに切り分けます。これは基礎をつかむための説明で、すべての量子方式に同じ加工手順を当てはめるものではありません。 [7]

以下では、Anderonの設計キット、SkyWaterとD-Waveの製造協業、NYUの施設計画を、この道筋に置いてみます。三つは別の事例であり、一つのチップを順番に受け渡す取引関係を示すものではありません。 [1] [2] [3]
装置全体の役割はVol.1で、完成したチップを動かす冷却・配線の話はVol.2で確認できます。
2.PDKは、設計を工場の条件につなぐ道具
一般的な半導体のPDKには、設計規則や、トランジスタという電気信号を制御する素子のモデルなどが含まれます。自由に描いた回路を後で工場へ頼むだけでなく、作れる条件を設計に取り込むための道具です。 [4]
Anderonは2026年10月14日、同社初の超伝導量子PDKを発表しました。超伝導とは、ある温度より低く冷やすと、電気抵抗がなくなる性質です。対象は300mmウェーハの製造基盤で、量子情報を担う量子ビットや、信号を出し入れする部品を含むと説明しています。 [1] [8]
通常のPDKと似ているのは、設計を製造へつなぐ点です。一方、扱う部品の種類や、確かめたい性質は同じではありません。 [1] [4]
PDKには、コヒーレンスを確認するための参照設計と、電磁的な振る舞いを計算で調べるためのパラメータ(計算に用いる値)も含まれています。第1世代はearly access、つまり早期アクセスとして、ライセンス契約を通じて提供する段階です。道具の提供を、完成したチップの量産や性能向上の実証とは読み替えません。 [1]
3.工場では、材料の層と回路の形を作る
一般的な半導体の製造には、材料を薄く積む成膜、光で回路の模様を転写するリソグラフィ、不要な部分を取り除くエッチングがあります。ちりの混入を抑えるクリーンルームも使われます。これらは加工を理解する基本用語で、今回の各社が採用する全工程を確認したわけではありません。 [5] [7]

300mmはウェーハの直径の話です。その数字だけでは、実際にできたチップの数や、量子チップとしての性能は分かりません。大きさと、できたものを確かめた結果を分けて読む必要があります。 [1] [7]
工場とのつながりが見える例は、2026年10月13日のSkyWaterとD-Waveの発表です。両社は製造協業を複数年契約で延長すると発表しました。SkyWaterのミネソタ工場での協業は10年以上に及び、Advantage2プロセッサの製造も含むと説明しています。 [2]
発表では、D-Waveが超伝導の工程技術と量子システム・プロセッサの設計を担い、SkyWaterが工程を組み合わせ、材料や薄い層を扱って製造する役割を示しています。発表は、同じ工場チームと作り続けられること(製造の継続性)を利点に挙げています。具体的な契約年数や金額、出荷数は、この発表からは確認できません。 [2]
4.試作と試験の場所は、開業前かどうかも読む
ニューヨーク市は2026年10月14日、ニューヨーク大学(NYU)のQuantum Fabrication Facility(QFab)計画を発表しました。量子チップや部品の製造・試験に使う設備を、研究者や学生、新興企業などが利用できるようにする構想です。 [3]
市の資金は2,920万ドル、NYUの資金は建設と10年間の運営を対象に2億5,500万ドルです。発表は総額を2億8,400万ドルとしています。これは施設を整えるための資金の説明で、企業の売上や量子チップの受注額ではありません。 [3]
開業は2030年の見込みです。クリーンルームや低温設備、技術者の育成も計画されていますが、すでに施設が動いているという話ではありません。発表文は量子の方式を特定しておらず、超伝導専用の工場と決めつけることもできません。 [3]
5.上場企業は「何を担うか」と段階を一緒に見る
今回の製造協業発表は、D-Wave Quantum Inc.をNasdaq上場(銘柄記号QBTS)と記載しています。同社は量子システム・プロセッサを設計する側で、確認した出来事は製造協業の延長です。会社全体の説明はD-Waveの記事に譲り、ここでは工場との分担に注目します。 [2]
Anderonは道具の早期提供、SkyWaterとD-Waveは契約の延長、QFabは施設の計画です。段階の違う発表を、まとめて「量産が始まった」とは扱えません。材料・部品を扱う会社の詳しい紹介はA23-1にあります。企業名を挙げる目的は役割を理解することで、株式の売買を勧めるものではありません。 [1] [2] [3]

今日覚えるのはこれだけ
量子チップづくりのニュースでは、「何を設計する道具か」「誰がどの工場で作るか」「何を試せる場所か」を一つずつ確かめます。私は、工場の名前や投資額の大きさよりも、設計から試験までのどの仕事が進んだのかを見ると、発表の意味をつかみやすくなると感じました。 [1] [2] [3]
出典と確認範囲
確認日:2026年10月27日。企業・自治体の発表と公式の基礎解説を読みました。PDKの契約・利用、工場や施設の見学、チップの製造・性能測定はしていません。論文や契約書の本文も確認していません。一般的な半導体の解説は用語の背景であり、量子チップ固有の加工条件を示すものではありません。
- Anderon:初の超伝導量子PDK(2026-10-14)。本文冒頭〜箇条書き・参照設計の段落・末尾early accessとlicense agreementを参照。
- D-Wave:SkyWaterとの製造協業延長(2026-10-13)。冒頭BLOOMINGTON段落、D-Wave’s work段落〜Under the new agreement、About SkyWaterを参照。
- ニューヨーク市:NYU QFab計画(2026-10-14)。冒頭What you should know、NEW YORK段落、QFab — which is backed段落、About the Quantum Fabrication Facilityを参照。
- Silvaco:半導体用語集のPDK(掲載日未確認)。P見出しのProcess design kit (PDK)項目を参照。
- ASML:半導体チップの作り方(掲載日未確認)。冒頭、How clean is clean?、Types of chipmakersを参照。
- IBM Quantum:量子ビットの性質(掲載日未確認)。View qubit properties → T2 (Dephasing time)を参照。
- Synopsys:マイクロチップと製造工程(掲載日未確認)。The Elements of a Typical Microchip、How Microchips Are ManufacturedのStep 1〜3を参照。
- 米国エネルギー省:超伝導とは(掲載日未確認)。冒頭Superconductivity is the property段落と電子対が抵抗なく動く段落を参照。