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公開日:2026年10月29日/最終確認日:2026年10月29日

IBMが2枚の量子チップを接続――「99%」は何の数字?

じいじと、4本のケーブルでつながる2枚の量子チップの概念図。
2枚のチップをつなぐ。 AIで作成した概念図です。

量子コンピュータのニュースに「99%」と出てくると、ほとんど間違えずに計算できるようになった、と受け取りたくなります。今回のIBMの発表では、まず「何を測った99%なのか」を確かめるのが大切です。

IBMは2026年10月27日、2枚の量子プロセッサーをつなぐ実験を紹介しました。状態を移す操作と、チップをまたいで行う計算操作には、異なる忠実度(狙いどおりにできたかを表す数字)が報告されています。この記事では、その違いを入口に発表を読みます。[1][2]

1.冷凍機の中で、2枚のチップをつないだ

実験に使ったのは、1枚あたり120量子ビットを持つIBM Nighthawk R1のチップ2枚です。4本の接続を設け、それぞれに長さ80センチメートルの超伝導アルミニウム同軸ケーブルを使いました。研究論文は、このチップ間接続をL-coupler(エルカプラー。長い距離をつなぐ結合部品の略)と呼んでいます。論文は研究者向けの公開サイトarXivに載ったもので、専門誌に掲載されたかは、この記事では確かめていません。[2]

ただし、実験で配線して測定したのは、接続付近の一部の量子ビットです。「1枚120量子ビットのチップが2枚だから、240量子ビット全体での計算が実証された」とは読み替えられません。チップに搭載された量子ビットの数と、今回の実験で使った範囲を区別します。[2]

IBMは、量子コンピュータを今よりずっと大きくするには、チップを大きくするだけに頼るのではなく、たくさんのプロセッサーが情報をやり取りしながら一緒に働く必要がある、と説明しています。今回の実験は、その「つなぐ」部分を確かめたものです。[1]

IBMの説明では、この接続は極低温の環境を共有するモジュール同士を結ぶものです。遠くの街へ量子情報を送る通信網の話ではなく、冷凍機の中でチップ同士を協力させるための接続を扱っています。[1]

冷凍機の中の2枚のチップを、それぞれ80センチメートルの4本の接続で結ぶ概念図。測定したのは一部の量子ビット。
接続と測定範囲を示す簡略図です。実物の形状や配置を再現したものではありません。 AIで作成した概念図です。 図を拡大して見る ↗

2.99%と94.75%を、同じ成績にしない

忠実度は、ここでは狙った量子状態や操作にどれだけ近いかを見る指標です。論文は次の二つを別々に測定しています。どちらも4本の接続についての平均値です。[2]

今回の実験で報告された平均忠実度[2]
何を測ったか平均値読み取る範囲
量子状態の転送99.00%接続を介して状態を移す操作
離れた量子ビット間のCZゲート94.75%異なるチップの量子ビット間で行う、2量子ビットの計算操作
量子状態の転送の平均忠実度99.00%と、離れたチップのCZゲートの平均忠実度94.75%を分けた図。どちらも4本の接続についての平均値。
異なる操作を測った二つの平均忠実度です。計算問題の正答率を表していません。 AIで作成した概念図です。 図を拡大して見る ↗

CZゲートは2量子ビットに作用する基本的な計算操作の一つです。ここでは「離れたチップ上の量子ビット同士に、ひとまとまりの計算操作をする」と捉えると、単に状態を移すこととの違いが見えてきます。研究チームはこの操作を使い、チップ間にまたがる量子もつれ(離れた量子ビット同士が、一組として結びついた状態)も作っています。量子もつれの考え方は「量子もつれとは?」で説明しています。[2]

このため、99%を「どんな計算問題でも99%の確率で正解する」という意味には使えません。また、二つの値を引き算しただけでは、装置のどの部分が何%の誤りを生んだかまで分かるわけでもありません。何を入力し、どんな操作をし、どう評価したかが違うからです。これは本稿での数値の読み方です。

見出しの大きな数字だけを覚えるより、「転送の平均」「計算操作の平均」と言葉を添えて覚えるほうが、後から別の発表と比べるときにも混同を減らせます。

3.冷やす仕組みと、量子状態をつなぐ仕組み

IBMは8月19日に、二つの冷却セルを結ぶ極低温構造の実証を紹介していました。これは、プロセッサーや配線を収めて冷やす設備を広げるための話です。[3]

一方、今回の発表の焦点はチップ間の量子操作です。「冷たい場所をつなぐ」と「そこで量子状態を移し、操作する」は、確認する対象が違います。8月と10月の発表は、別々のことを確かめた発表として読めます。ただし、両発表が同一の実験装置を使ったかは、本稿では確認していません。

背景にある冷却・配線の役割は、装置と材料特集 Vol.2で説明しています。IBM全体の量子開発の見取り図は、IBMの量子部門と全社事業を分けて読むための記事をご覧ください。

4.今回分かったことと、これから確かめたいこと

IBMは今後の課題として、接続の歩留まり(作ったもののうち、きちんと使えるものの割合)や再現性の改善、誤りの低減、接続数の拡大を挙げています。今回の成果は将来の大きな計算機へ向けた研究の一段階であり、誤り訂正を備えた計算機全体の完成を示す発表ではありません。[1]

次の発表を読むとき、本稿では三つを確かめたいと考えます。接続を増やしても性能を保てるか。複数の装置でも同様の結果を得られるか。そして、接続を組み込んだ計算全体で何を実行できたか。これは今後の確認項目であり、達成済みの結果ではありません。

チップをつなげたという話から、すぐに実用化の時期や会社の利益を判断することはできません。今回の記事は接続実験の読み解きに範囲を絞り、売上予測や株価予想は扱いません。

今回出た言葉

  • 忠実度:狙った状態や操作に、実際の結果がどれだけ近いかを表す数字。100%に近いほど狙いどおり。
  • 量子状態の転送:ある量子ビットが持つ状態を、別の量子ビットへ移す操作。
  • CZゲート:2つの量子ビットに働く、基本的な計算操作の一つ。
  • 量子もつれ:離れた量子ビット同士が、一組として結びついた状態。
  • モジュール:ひとまとまりの部品の単位。ここでは、チップとその周りの部品をひとまとまりとして扱う考え方。
  • 同軸ケーブル:中心の線を、絶縁体と外側の筒で包んだケーブル。テレビのアンテナ線と同じつくり。
  • 歩留まり:作ったもののうち、きちんと使えるものの割合。
  • arXiv(アーカイブ):研究者が論文を公開するサイト。専門誌に載る前の論文も多く公開される。

今日覚えるのはこれだけ

今回の「99%」は量子状態を転送する操作の平均忠実度です。チップ間の計算操作には別の数字があり、実験で使った量子ビットの範囲にも限りがあります。「何を、どの範囲で、どう測った数字か」を添えると、新しい成果の大きさと残る課題を一緒に読めます。

出典と確認範囲

確認日:2026年10月28日。企業の技術記事と研究者による論文の要旨・本文の関連箇所を読みました。装置の操作や実験の再現はしていません。論文はarXivで公開されたv1を参照し、査読誌への掲載は今回確認していません。

  1. IBM:Modular quantum computing takes shape with l-couplers(2026年10月27日)。実験の位置づけ、冷却環境、今後の課題。
  2. Sundaresanほか:Meter-scale quantum interconnects between large quantum processors(2026年10月21日、arXiv:2610.29986v1)。要旨・図1説明・L-coupler節・状態転送と遠隔ゲートの節。チップ、ケーブル、測定対象、二つの平均忠実度。
  3. IBM:IBM’s new modular architecture for cryogenic systems(2026年8月19日)。二つの冷却セルの実証。今回の接続性能の根拠ではありません。

この記事は公開資料に基づく学習・記録です。特定の銘柄の購入・売却を勧めるものではありません。

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